福岡地方裁判所 平成11年(行ウ)14号 判決 1999年11月19日
原告
庄野崎徹二
被告
西福岡税務署長 田中正廣
右指定代理人
松崎義幸
同
和多範明
同
腹巻哲郎
同
山崎元
同
森本凡
同
渡邉博一
主文
一 本件訴えを却下する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 原告
1 被告は、原告に対して平成一一年三月一日付けでされた平成七年分及び平成八年分の各所得税更正並びにこれらに係る各過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告(本案前の答弁)
主文と同旨
第二事案の概要
一 本件は、原告が、被告がした原告の平成七年分及び平成八年分の所得税の更正並びにこれらに係る過少申告加算税賦課決定処分の取消しを求めた事案である。
二 前提となる事実
1 原告は、被告係官の調査に基づき、平成七年分の所得税については平成一一年二月二日に、また、平成八年分の所得税については平成一一年二月二日及び同月二六日に、それぞれ別表「調査による修正申告」欄記載のとおり、所得税の修正申告書を被告に提出した。
2 被告は、原告の平成七年分及び平成八年分の所得税について、平成一一年三月一日付けで、別表「修正申告に基づく過少申告加算税の賦課決定」欄記載のとおり、過少申告加算税の賦課決定処分をし、また、原告が修正申告に応じなかった部分については、同日付けで、別表「更正」欄及び「更正に基づく過少申告加算税の賦課決定」欄記載のとおり、更正及び過少申告加算税の賦課決定処分をした(甲一、乙一、二。以下、これらの処分を併せて「本件各処分」という。)
3 原告は、平成一一年五月二七日、本件各処分に不服があるとして、別表「異議申立て」欄記載のとおり、被告に対して異議申立てをしたが、被告は、原告の右異議申立てが、国税通則法七七条一項の不服申立期間を徒過して行われた不適法なものであるとして、別表「異義決定」欄記載のとおり、同年六月一〇日付けで右異議申立てを却下する決定をした(甲五、六)。
4 右異義決定に対し、原告は、平成一一年六月一五日、別表「審査請求」欄記載のとおり、国税不服審判所長に対して審査請求をしたが、国税不服審判所長は、右3と同様の理由により、別表「審査裁決」欄記載のとおり、同月二八日に原告の請求を却下する裁決をし、原告は、同年七月二二日、本件各処分に不服があるとして本件訴訟を提起した(甲七)。
三 当事者の主張
1 被告の本案前の主張
被告は、原告の平成七年分及び平成八年分の各所得税について、平成一一年三月一日付けで本件各処分をし、右各処分の通知書は、同月二日、簡易書留郵便で原告に配達されたが、原告は、国税通則法七七条一項所定の二か月の不服申立期間を経過した後の同年五月二七日、本件各処分について異議申立てをした。これに対する異義決定及びそれに続く審査申立てに対する審査裁決ともに、不服申立期間徒過後の申立てであることを理由に却下されたが、更正処分取消請求については、行政事件訴訟法八条一項ただし書、国税通則法一一五条一項本文により、処分について適法な不服申立手続を経た上でなければ、右処分の取消しを求める訴えを提起することができないものであるところ、不服申立前置主義を定めている場合において、訴訟提起に先立って経由することを要する不服申立手続とは、実体的に不服申立ての理由の有無を判断したものであることを要し、不服申立てが不適法を理由として却下されたときには、不服申立前置の要件を具備したものということはできないのであって、結局、本件訴えは、行政事件訴訟法八条一項ただし書、国税通則法一一五条一項に規定する不服申立手続の前置がされていないこととなり、不適法である。
2 原告の反論
原告が、平成一一年三月二日、本件各処分の通知書を受領したことは否認する。
原告は、住所地に右通知書が郵送されるとは予測しておらず、また、右通知書が他の郵便物に紛れていたために気付かず、平成一一年五月二日ころに郵送された被告からの督促状によって、本件各処分があったことを初めて知った。
また、原告は、平成一一年三月一二日付けで平成一〇年分所得税の確定申告をしているが、その記載内容から、原告は、右申告書により、本件各処分に対して実質的に異議申立てをしているというべきである。
第三判断
一 国税通則法七五条一項は、税務署長が国税に関する法律に基づく処分を行った場合において、その処分を受けた納税者が当該処分に不服がある場合は、税務署長に対する異議申立て及び右異義決定につき国税不服審判所長に対する審査請求をすることができる旨規定しているところ、同法七七条一項は、税務署長のした処分に不服がある場合、処分があったことを知った日(処分に係る通知を受けた場合には、その受けた日)の翌日から起算して二か月以内に不服申立てをしなければならない旨規定する。そして、処分に係る通知を受けたというためには、社会通念上、処分を受ける者が通知の内容を了知し得る客観的状態に置かれれば足り、現実にその内容を了知することを必要とするものではないというべきである。そして、右通知が郵便による場合には、右通知が郵便により名あて人の住所に配達されて、右の者がその内容を了知することのできる状態に置かれることをもって足りるというべきである。
二 ところで、前記前提となる事実、乙第一号証ないし第四号証及び弁論の全趣旨によれば、本件各処分は、平成一一年三月一日付けでされたこと、その通知書は、同日、被告から簡易書留郵便にて原告あてに発送され、翌二日、原告の住所地に配達されたこと、原告は、同日から二か月以上経過した後の同年五月二七日、被告に対し、異義を申し立てたことが認められる。
そうであれば、原告による右異議申立ては、前記不服申立期間経過後にされたものであるから、不適法であるといわなければならない。
三 これに対し、原告は、住所地に右通知書が郵送されるとは予測しておらず、また、右通知書が他の郵便物に紛れていたために気付かず、平成一一年五月二日ころ郵送された被告からの督促状によって初めて本件各処分を知った旨主張するが、前記のとおり、本件各処分の通知は、同年三月二日に原告の住所地に配達されており、原告としてこれを了知し得る客観的状態に置かれたことが認められるから、原告の右主張は理由がない。
また、原告は、平成一〇年分の確定申告書の記載内容から、右確定申告により実質的に異議申立てをしたものである旨主張するが、国税通則法八一条一項によれば、異議申立ては、異議申立てに係る処分、右処分があったことを知った年月日(処分に係る通知を受けた場合には、その受けた年月日)、異議申立ての趣旨及び理由、異議申立ての年月日を記載した書面を提出しなければならないと定められていることからしても、右確定申告書をもって異議申立てがあったものと認めることができないことは明らかであり、この点に関する原告の主張も採用できない。
四 以上のとおり、原告による本件異議申立ては、不服申立期間の経過後にされたものであって、不適法であり、そうであれば、原告が平成一一年六月一五日付けでした国税不服審判所長に対する審査請求も、適法な異議申立てについての決定を経ていない以上、国税通則法七五条三項に違反する不適法なものといわなければならない。したがって、本件訴えも、適法な審査請求裁決の前置を経ることを定めた行政事件訴訟法八条一項ただし書及び国税通則法一一五条一項の規定に反し、不適法な訴えであるといわなければならない。
五 よって、その余の点を判断するまでもなく、本件訴えを却下することとし、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結の日 平成一一年一〇月二一日)
(裁判長裁判官 木村元昭 裁判官 森英明 裁判官 菊池浩也)
別表
平成七年分所得税の課税の経緯
<省略>
平成八年分所得税の課税の経緯
<省略>